เข้าสู่ระบบお、おっかなかった~、あのご令嬢!
誰だよ、『社畜令嬢』であんまり目立たないって言った奴!とんでもねー肝っ玉令嬢じゃないか。俺の名前はルカ。
フリーギドゥム帝国現皇帝であるイヴァン様に仕える忠実な僕だ。本来なら、皇帝陛下に仕えられるほどの身分ではないし、近づくことも許されないだろう。
だけど、『変化魔法《トランス》』の腕を買われて、側近として仕えている。先ほどまで、エキャルラット家に訪問していた。ただ偵察していたんじゃない。ちゃんと理由がある。
――『社畜令嬢』と呼ばれて、蔑まれているルイーズ嬢。噂通りなら気が弱そうで容量が悪そうなご令嬢。
そんな彼女に『冷血皇帝』であるイヴァン様の奥方が務まるとは思えなかったからだ。 「まさか鮮紅令嬢――通称、リュミエール王国にいると言われる戦闘の天才。イヴァン様がずっと想い続けている存在。
それが一体誰のことを指して、本当に存在するのか、何もわかっていなかった。俺も戦争で様々な国を訪れて、戦った兵士たちに口々に言われるそれが虚構であるとしか思わなかったんだ。
だからこそ、卒業パーティーで国王が彼女を『鮮紅令嬢』と呼んだ時は本当に衝撃で思わず体が固まった。
そして、その後ヴィクトル――あのぼんくらを殴ったときには、もう乾いた笑いしか出なかったね。
「確かにあの立ち振る舞いは普通の令嬢ではないわな」彼女が歩くとき足音が全くしないのだ。
たとえいきなり求婚されて思考がショートしていても、豪奢なドレスを着飾っていても。どんな時でもだ。そんな諜報にでも使うような技術、普通なら持っていないしできない。
「まあ、今帝国にいるどの令嬢がイヴァン様の妃になるぐらいなら、彼女が妃になった方がいいなぁ。変な真似はしなさそうだし」
おっかない人だったけど、人への敬意を忘れないところは彼女の美徳だと思う。そう言うところがイヴァン様の心の柔いところに刺さったのだろう。
ぜひとも、彼女の前では年若な乙女みたいな対応をするイヴァン様には頑張ってほしい。*
「イヴァン様、ただいま戻りました。……あの、一体何が起こっているんですか?」
「ん? あぁ、我々がこれからの交渉で優位に立つための切り札をと思ったが、効果がありすぎたな」 ニコニコと微笑むイヴァン様、対して明らかに何かに殺意を抱いている男女。あれ、この男女誰かに似ているような……。男の方はさっぱりとした赤髪の短髪に切れ長の紅い瞳。女の方は黄金を伸ばしたような金の髪に圧力を感じるほどの目力のある瞳が爛々と輝く。
……もしかして、ルイーズ嬢のご両親? うわー、2人とも彼女にそっくり。
だからだろうか。さっき屋敷で見たルイーズ嬢のキレ顔と重なる。
「ふーん、だから私たちを至る所の国境に飛ばしたのね。私たちがいたら自分の思い通りにならないから。あの子を乏しめるために。……一体、何様のつもりなの?」
「『社畜令嬢』、か。誰のせいでそう呼ばれるようになったのかもわからんのか。そんなことが分かっていたら晴れ舞台で婚約破棄などせんか」――やっぱりそうだ。
穏やかそうに見えながら、心の奥底で憎悪の炎を燃やすような怒り方。
あのパーティーで王子に対して接するルイーズ嬢とそっくりだ。いや、もしかしたら何倍も苛烈に燃え盛っているのかも。心なしか部屋の中が暑い気がする。
「それで、イヴァ――コホン、ヴォルコフ閣下。私たちにこれを見せて何をお願いしたいのかしら?」
憤怒を笑みに蓄えながらエキャルラット夫人は問う。美人の怒りって圧があるんだよな。
それを分かってきっと彼女は微笑んでいる。 ずーっと昔、イヴァン様を
「ヴィクトル王子の王位継承権を剝奪する手伝いをしてほしい。彼に王になられるのはこちらとしてはいろいろと不都合だ」
おぉ、この地獄のような空気感の中切り込んでいったー!!
ごめんなさい、陛下。先ほどは乙女みたいとか言ってしまって。「……あなたが手を汚さずとも、彼は臣下に、いや、平民になるでしょうから。無為にやる必要はない」
先ほどまで沈黙を貫いていたエキャルラット侯爵がきっぱりとそう言い切った。
それに同意するように夫人も小さく頷く。え? なんでそんなに冷静でいられるの。
彼らにとって、自分の国の王子が位を落とすって相当な事態のはず。
それなのに、問いかけたはずのイヴァン様よりも冷静なのって何事なんだそして、さらっと重要な情報を言うな。
イヴァン様の持つ紅茶のカップがフルフルと震えているでしょうが。
――意外と想定外の事態に弱いんだ、この人は。「ルカさん」
「はい、何でしょうか。エキャルラット夫人」
「さっき、我が屋敷に行ってきたのでしょう? あの子はどんな様子でした?」さらりと名前把握されているし、訪れていたことも知られている。本当に何なんだこの一家。
――ルイーズ嬢の様子?
あぁ、母親として娘の様子は把握しておきたいのか。屋敷を離れていたのも短い期間じゃなさそうだし、何よりかなり親ばかそうだ。
「変に落ち込んでいる様子はありませんでしたね。そのなんと言うか、パーティーで見かけた時よりも自信に満ち溢れていました」
とりあえず抱いた印象をそれとなく伝えてみたけど、彼女は俯く。
彼女は悲しみに打ちひしがれているのか、肩を震わす。
……いや、違うな。これは笑っている?「アハハ、それなら大丈夫ね。王妃ったら、あの子の心を支配できるとでも思っていたようだけど失敗したみたいね。本当に馬鹿みたい。フフフ、ハハハハハ!!」
もうすべてが面白いとでも言いたいように彼女は笑う。そんなに笑いすぎたら息もできないんじゃと突っ込みたくなるくらいに。
イヴァン様も旦那さんも困っていますよ。……え? 二人とも真顔で彼女の様子を見守っている。
「彼女は一度笑いだすとなかなか収まらないのだ」
「……昔よりも少々悪化してはいないか?」
ボソッと告げられて納得する。
イヴァン様は大きくため息をついているけど、見たことがあるの?そりゃ、旦那さんは慣れているわ。
スマートにハンカチとか差し出しちゃったりして。「私も、エキャルラット家の皆はヴィクトルとの婚約を反対していたし、あの子も乗り気じゃなかった。王命という手段で押し切られたがな。でも、そうして得た婚約も自らどぶに捨てたんだ。笑えて来るだろう?」
少しだけ笑みを浮かべ、「あの子はヴィクトルについて何か話していたか?」と聞かれ、あることを思いだす。
そういえば、ルイーズ嬢はヴィクトルに未練があるなど一言も言っていなかったし、話してもいなかった。……むしろ、嫌いそうだな。
「焦っているのは国王陛下だろうな。あの方はあの子のことを一等気に入っていたし、本当なら愛息子である王太子と婚約させたかったのだろう。――しかし、それも叶わないし叶わせない」
どこか冷めた目でそう言う彼に同意するしかない。
卒業パーティーでの一幕を見る限りそうだろう。
外からきて内情をよく把握していない俺たちでもわかることだ。婚約破棄に関する事実確認を実の息子ではなく、ルイーズ嬢にやっていた。
その時点でとっくに国王は見限っている。「ただ、その時点で間違いなく我が子たちは巻き込まれるだろう。それだけは避けたい」
どこか遠くを見据えた侯爵は立ち上がり、帰り支度をする。 先ほどまで笑い呆けてた夫人も共に。その前にこちらに振り返り、ニンマリ顔でこう告げた。
「でも、こんな小細工なんてする必要ないと思うわ。正々堂々、あの子にあたって砕けてらっしゃい。大丈夫よ、あの子はあなたが思うよりも冷たくないわ」――初恋を叶えたいなんて可愛らしいところもあるのね。
悪戯っぽく笑う彼女に、イヴァン様は肩を跳ねさせる。
よく見たら耳まで真っ赤になっている。「いつから気付いていたのですか?」
「最初からに決まっているじゃない。私たちを出し抜こうならもう少し腹芸を覚えなさい」あ、知っていたんだ。イヴァン様がルイーズ嬢に求婚していたの。
夫人は魅惑的な笑みをこちらに向け、『移動魔法《テレポーテーション》』で屋敷に帰っていく。
「はぁ、俺はまだまだだな。いつまでもあの怪物たちに勝てる気がしない」
なーに言ってんだ。
俺からすればあなたも十分怪物ですけどね。皇帝陛下に返事をした3日後、彼の帰国と共に私もフリーギドゥム帝国へ向かうことになった。「ルイーズ、帝国でも元気にやるのよ。困ったときにはいつでも連絡して頂戴」「えぇ、お母さま。精一杯励ませていただきますわ。……それよりも、お父さまは大丈夫ですか?」 ニコニコと優し気な笑みを浮かべる母と、目じりを赤くして無言で泣く父。 彼女は「すぐに立ち直るわ」と、鈴を鳴らすような声で笑っていたけど、悔しげな顔で泣く父に思うところはないだろうか。「大丈夫だ。……ここのところ涙腺が少々緩みがちなだけだ。本当に大きくなったな、ルイーズ」 でも、ここまで私のために泣いてくれる人が私の父親でよかったと心の底から思う。「姉さん、達者でな。あいつのことに関しては任せろ。だから、何も気にせずあっちで幸せになってくれ」「ありがとう、ジョセフ。自分の人生を全うするわ。でも、あなたも無理しないでね」 いつもは硬い表情をしているジョセフも今日は微笑んでいる。 私がどれだけヴィクトルに仕事を押し付けられても、あなただけは私を支えてくれた。 他の側近たちが彼の行いを助長させる中、あなただけは私の味方だった。「それでは行ってまいりますわ、お母さま、お父さま、ジョセフ。また会うときは元気な姿で会いましょう」*「思ったよりもこちらに来るのが早かったな。家族には挨拶を十分に済ませられたのか?」 屋敷を出ると、門の前にはすでに皇帝陛下――もといイヴァン様が待っていた。「本当にもういいのか?」とでも言いたげな視線は、彼なりに私のことを気遣っているらしい。「はい。門出ですからね。しっかりと挨拶してきましたよ」「そうか、それならばよかった。家族のもとを何も言わずに去ることほど寂しいことはない」 何かを懐かしむように言う彼の瞳は憂いを帯びている。どことなく哀愁の感じる横顔だ。 それもそうか。 彼にはそんな機会、何度もあったに違いない。 私よりも長い年月を生き、少なくない戦争に参加している時点で。 ――きっと、彼にとってはある種些細なことなのだろう。 だからと言って、その悲しさが消えないわけではない。 誰だって、失うことで傷つく心は持っているはずだ。 冷血そうに見えて以外と人間味のある彼はそれを抱えていそうだ。「陛下、今回は家族に挨拶をする機会を下さりありがとう
「それでは、先に攻撃を仕掛けさせてもらおう」 風を裂く音が耳に響く。先に仕掛けたのは陛下だった。 その筋肉質で太い腕から繰り出される低く重い一撃。それはすぐさま私の喉元に迫ろうとする。「最初から随分と飛ばしますね、陛下?」「ふっ、小手先の技を使っていてはどうにもならないからな。とはいえ、この程度の技なら軽くいなすというのか、さすがだ」 本当に笑えない。どう見えたら私が技を軽くいなしているように見えるんだ。 ――私の言動に余裕があるようにでも見えたのか? 確かに、今陛下の一撃を剣で相殺した。 彼の力強い一撃を何とか跳ね返せたけど、その代償に少しの痺れを感じる。 腕の耐久力が追い付かなかったのだろう。 その痺れは確実に私の集中を削いでいく。 うーん、これはあんまりよくない。長期戦を覚悟していたけど、仕方がない。「こちらも全力でやらねば無作法ですよ……ね!!」 力で勝てないのなら技を、技でも不十分なら速さを。 余計な情報を排除し、それらに全ての意識を集中させて、彼の急所に叩きこむ。 相手の隙を縫うように、粘着質で嫌味に感じる一撃を。「これは……ハハッ、面白いではないか」 どうしても、女と男では力の差というものが如実に出てしまう。 特に彼のように鍛錬を積んだ男と、私のような書類仕事ばかりしてろくに動いていない女ならなおさらだ。 でも、そんな前提条件を受け入れるつもりは毛頭ないし、つまらないことだ。「はぁ、はぁ……そう簡単に行くものでもないですね」「息が上がっているぞ。もしかして、もうくたばったのか?」「そうですね。ここまで動くのは久しぶりなもので。でも……」 余裕も意地も何もかもを無くしてからが本番でしょう?戦いというのは。 お互いに息が上がり、体力の限界が明確に見え始める。 今、私
「今日はよくぞいらっしゃいました、皇帝陛下」「そう固くなる必要はない、ルイーズ嬢。また、あなたに会う事ができてよかった」 両親の帰宅から2日後、あのパーティーから3日後。――それはちょうど、イヴァン様が我が家に訪れる日。 その日、彼は朝早くから我が家にやってきた。この前屋敷にやって来たルカさんのみを連れて。 ところで、ルカさんの顔が青いのが心配なのだけど、どうしたのかしら? こちらの様子を伺っているというか、なんと言うか。「先日ぶりですな、皇帝陛下? ――随分と娘と仲睦まじいようで」「エキャルラット侯爵、どうしてそんな芝居がかった話し方を?」 「はぁ、その言葉そっくりそのままお前に返すよ」とあきれたように話す父と、皇帝陛下。 二人はかなり前からの知り合いらしく、お互い微笑みながら握手を交わす。 一見したら友人同士握手をするというなんともない風景。 しかし、父よ。そんなにミシミシと音が鳴るぐらい握ったらだめだ。このままでは彼の手の骨が粉砕してしまう。「あ・な・た。そんなに長く握手をしていたら皇帝陛下がお困りになるでしょう? 申し訳ございません、皇帝陛下。よく言って聞かせますから」 そんな父の様子を母が見逃すわけがなく、扇子で父の大きな背中を小突く。パシーンと軽快な音があたりに響いた。 さすがの父も母の小さな背に虎でも宿っているような気配に引き下がる。 その獅子のような体は縮こまり、目には涙が浮かぶ。 相変わらずお母さまに完全に尻に敷かれているわね、お父さま。「あ、ありがとう、エキャルラット夫人。それで、侯爵はそのままで大丈夫なのか?」「どうぞ、お気になさらず。少し意地を張った彼が悪いのです」 母はぴしゃりと言うと、彼は「そういえばそうだった」と何かを思い出すように笑う。「そういえば、前ルイーズと手合わせをしてみたいと言っていましたでしょう。ちょうどいい機会ですからどうです?」 ――え? どうなったらそんな話になるの。 母が軽快に発した言葉に動揺を隠しきれない。 もともとどこかずれているとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。 お願いですから、そんな「散歩でもします?」というノリで言わないでください。 おかしいな。母は外から嫁いで来たはずなのに、この場にいる誰よりも戦いに飢えているような気がする。逆に、お父さま
「お帰りなさいませ、お父さまお母さま」「父上、母上、よくぞ戻られました」 あの卒業パーティーから一夜明け、父と母が3年ぶりに我が家に帰宅した。 昨日、就寝する前にいきなり『伝達魔法《トランスミッション》』が飛んできたときには椅子から横転した。 真夜中だというのに大きな音を出してしまって、ジョセフにはびっくりさせちゃったかな。「ただいま戻ったぞ!! かわいい我が子たち、元気に過ごしていたか~」「ちょっと、あなた。汗まみれの状態でジョセフにくっつかないの」「大丈夫ですよ、母上。ただ、ちょっと、抱きしめる力が強くて、苦しぃ」 うん、ぎゅ~っていう可愛らしい音じゃなくて、関節とかが締まっていそうなギュギュって明らかになっちゃいけない音がしているからね。 ジョセフが筋肉質だからいいものの、そうじゃなかったら間違いなく彼が爆散していそうだ。 自分の子供が好きなのはいいけど、もう少し自分の力の強さを理解してくれ。「お父さま、そのままだとジョセフが息できなくなってしまいます。もう少し手心を」「そうだな、すまんすまん。ジョセフ大丈夫か?久しぶりに会えたのが嬉しすぎて思い切り抱きしめてしまった」 ハハハと快活に笑う父は3年前我が家から出立したときよりも、少しだけ隈が濃くなった。 3年間、父と母は国境に駐屯している兵士たちの底上げ訓練を行っていた。 最初は二人とも私たちの成長を見守りたいからと言って断っていた。 しかし、王命と言われてしまえば従わざるを得ない。 なかなか連絡を取ることができなくなるほどの激務。知ることもままならない我が子の様子。 自分の子供をかなり溺愛している二人にとってこの3年間は辛いものだったと思う。 「フフフ、またこういう光景が見れてお母さま、嬉しいわぁ。あのメギつ……コホンコホン。王妃様から婚約を打診されたときは二度と見られないことを覚悟したもの」 「そうですね。私も思っていませんでした。……ただ、お母さま。ごめんなさい」 「どうして謝る必要があるの? ……もしかして、例のことかしら?」 どう見ても、お母さまが怒っているからです。 いつものようにニコニコと微笑みかけているけど、目の奥が笑っていない。 そうだよね。怒られるに決まっている。 どれだけダメな奴でも一国の王子であるヴィクトルに婚約破棄されてしまったもの。
お、おっかなかった~、あのご令嬢! 誰だよ、『社畜令嬢』であんまり目立たないって言った奴!とんでもねー肝っ玉令嬢じゃないか。 俺の名前はルカ。 フリーギドゥム帝国現皇帝であるイヴァン様に仕える忠実な僕だ。 本来なら、皇帝陛下に仕えられるほどの身分ではないし、近づくことも許されないだろう。 だけど、『変化魔法《トランス》』の腕を買われて、側近として仕えている。 先ほどまで、エキャルラット家に訪問していた。ただ偵察していたんじゃない。ちゃんと理由がある。 ――『社畜令嬢』と呼ばれて、蔑まれているルイーズ嬢。噂通りなら気が弱そうで容量が悪そうなご令嬢。 そんな彼女に『冷血皇帝』であるイヴァン様の奥方が務まるとは思えなかったからだ。 「まさかあの『鮮紅令嬢』が彼女だなんて誰も思わないだろ」 鮮紅令嬢――通称、リュミエール王国にいると言われる戦闘の天才。イヴァン様がずっと想い続けている存在。 それが一体誰のことを指して、本当に存在するのか、何もわかっていなかった。 俺も戦争で様々な国を訪れて、戦った兵士たちに口々に言われるそれが虚構であるとしか思わなかったんだ。 だからこそ、卒業パーティーで国王が彼女を『鮮紅令嬢』と呼んだ時は本当に衝撃で思わず体が固まった。 そして、その後ヴィクトル――あのぼんくらを殴ったときには、もう乾いた笑いしか出なかったね。 「確かにあの立ち振る舞いは普通の令嬢ではないわな」 彼女が歩くとき足音が全くしないのだ。 たとえいきなり求婚されて思考がショートしていても、豪奢なドレスを着飾っていても。どんな時でもだ。 そんな諜報にでも使うような技術、普通なら持っていないしできない。「まあ、今帝国にいるどの令嬢がイヴァン様の妃になるぐらいなら、彼女が妃になった方がいいなぁ。変な真似はしなさそうだし」 おっかない人だったけど、人への敬意を忘れないところは彼女の美徳だと思う。そう言うところがイヴァン様の心の柔いところに刺さったのだろう。 ぜひとも、彼女の前では年若な乙女みたいな対応をするイヴァン様には頑張ってほしい。*「イヴァン様、ただいま戻りました。……あの、一体何が起こっているんですか?」「ん? あぁ、我々がこれからの交渉で優位に立つための切り札をと思ったが、効果がありすぎたな」
「私が不幸になると言うのは一体どういうことですか?」 イヴァンの部下であるルカにそう告げられて、一番最初に気になったのがそこだ。 婚約破棄される不名誉なお前は相応しくないとか、小国の女が我ら帝国に合うわけがないとか。 そう言う観点から『求婚を受けないでください』と言うのはよく分かる。 でも、彼はそうとは言っていない。「皇帝陛下が『冷血皇帝』と恐れられていることを知っていますよね?」「それは勿論、一貴族として世界の情勢を把握していて当然ですわ。もしかして、関係あるのですか?」「はい、その通りです。しかし、その一端に過ぎないと言いますか……。」] そう言うと彼は気まずそうに私から視線を逸らす。その様は少し気恥ずかしそうだ。まるで、思春期の男性が魅惑的な女性を見て恥ずかしがるような。 なんとなく『冷血皇帝の奥方と言う色眼鏡で見られる』という理由だと思っていた。 でも、あの様子じゃそうではなさそう。 私が想像しているよりももっと内密な理由なのかしら?「あの方はすごくモテるのです。特にいわゆる背伸びしがちなあなたぐらいのお嬢様方に。」 なるほど、そういうことね。理解したわ。 皇帝陛下はすごく顔が美しい。透き通るような白い肌、雪のように眩い白銀の髪、氷のような青い瞳。 ――神の手で作られた彫刻と称されるほどだ。 つまり、今すごーく恥ずかしそうにしている彼はこう言いたいのか。 『あの方がほかの女性に目移りして、あなたのことを蔑ろにしてしまうのかもしれない』とか、『ほかの女性があなたに嫉妬して、あなたを不用意に傷つけるかもしれない』と。「フフ、実にばかばかしい戯言を吐かれるのですね。」「た、戯言などでは……。」 私のことをガラス細工のように儚いと思っているの? 伊達に私は|ヴィクトル《ぼんくら王子》の婚約者をやっていたわけじゃないのよ。 しかも、息子にはちょーぜつに甘い王妃付きのね。「い